加瀬さん

照明はある程度の技術・年齢・知識が必要なんですが、それを超えられるというか。正解がない仕事で、全てが自由なので、その人の個性が出しやすいというのが一番の魅力だと思います。その先はみんなが悩むアイディアだったり、発想力というのをいかに表現できるかということと、それが監督の演出の手助けにつながってくるというのを考えてやるのが照明の一番の面白さなのかなって思います。逆に言うと、ありきたりなことをやっているとつまらないと思われてしまうこともある。そういう自由度の高い部署であるっていうのが一番の魅力なのかなと思います。

富沢さん

テレビでいうと、監督やカメラマンなどの他の制作スタッフはあまり照明に詳しくないことが多いんです。だから本当に自由が利いて、自分のやりたいことを表現しやすいっていうところが、照明の仕事の一番面白いところですかね。

木村さん

普通のロケ場所や箱のセットってだいたいライティングって決まっちゃう気がしていて、そこに自分の今までの引き出しから味付けをするために考えるのも楽しい、というのが照明の仕事の魅力なのかなと思います。

富沢さん

最初に台本を読んで考えている時が面白いよね。まだセットとかロケ場所とか決まっていない中で、台本を読んだ時には「こんな感じできるかな」みたいなことを考えたりしています。

川埜さん

僕ぐらいの技術だとうまくいかないことの方が多いんですよね。でも、それがまた面白さにも繋がるかなっていう。本当にずっと正解が見つからないけれど、その失敗すらも楽しむことができる、という魅力もありますね。

加瀬さん

失敗だらけだよね。

川埜さん

成功するっていうことがなかなか分からないです。

木村さん

きっと自分が満足すればいいんじゃないの。答えは結局自分だからさ。

加瀬さん

台本を読んで自分のイメージを作る、そこから監督やカメラマンの意見が入ってくる、そしてセットが出来上がる、最終的に役者さんを入れて段取りをやる、その色々な段階を踏んでいく中で、監督の言葉や役者さんの芝居を見た時に自分がアイデアを閃く瞬間が俺は好きなの。一作品の撮影の中で数回しかない瞬間なんだけどね。

富沢さん

そうそう。確かに閃いた時はとても楽しいね。ドライを見ている時に、「こうやろう！」ってなることもある。

加瀬さん

閃いちゃった時は、今まで準備してきたことを覆してしまうこともあるって言うのが面白さでもあったりする。助手たちからは大変だと思われている可能性も大いにありますし、本来は準備段階でできているのが一番ではあるとは思っていますが…

木村さん

それはしょうがないですよね、役者さんの動きを見ていく中でライティングを変えたいって言うのは出てくる。

富沢さん

あるある、照明を持ってる助手に「とりあえずあっち行ってみて」とか（笑）

加瀬さん

「キーライトを大切にする」という考え方は持ってないといけないなと思うね。照明として一番大切なキーライトがイメージできずにふわっとしている状態だと、大体うまくいかないね。

川埜さん

閃きを成立させるのも、キーライトという主軸があってのものなんですね。

木村さん

加瀬さんは他人の考えを引き出すのが上手いなって思います。よく一緒に下見に行っていた時は、「アイデアある？」とか聞いてくれるんですよ。そしてそこで自分が言った意見が採用されたりするので、すごいなって思います。

加瀬さん

それはいろんな人のアイデアを引っ張ってきてそれを組み立てるのが上手で、役者さんの意見すらも取ってきて組み込んでしまうような監督と仕事する中で学んできたことかな。

富沢さん

ひらめきがないときは監督に「これどうする？」って聞いたりすることもあるね。

加瀬さん

自分はイメージだけを伝えて、それを具体化するのはフロアチーフや助手の仕事だと思っていて、ライトの配置など全てを自分で決めるタイプではないです。本来は、自分がプランを立てて、どこにどのライトを置くかを決めてやればそこから生まれる画は、自分では想像できるんですよ。でもイメージだけ伝えることで、フロアチーフの考えがプラスされて自分の想像じゃないものができてくることがあるんです。それがちょっと違った時は修正すればいいし、良い時はそのまま採用すればいいなと思ってやっています。

富沢さん

俺なんかは、最初にキーライトだけ決めて、あとはイメージだけ伝えてフロアチーフに委ねる。出来上がったものをみて、かっこいいものだったら採用するし、違ったら自分流に修正する、皆そうなんじゃないかな。

川埜さん

フロアチーフをやっている時は、加瀬さんみたいにイメージだけを伝えてくれる人もいれば、忠実にどこにライトを置いてくれ、っていう人もいるので、それに合わせて対応しながらやっています

富沢さん

逆にフロアチーフから「こっちの方がいいんじゃないですか」って言ってくれる人もいる。

川埜さん

そういう時はどうやって返すんですか？

富沢さん

「いいよやってみれば」って（笑）自分が想像してないこと言われたら、「とりあえずやってみて」ってなるね。フロアチーフが初めて一緒にやる人なのか、信用しきっている人なのかでも話が変わってくるけどね。

川埜さん

フロアチーフからすると、技師さんとの関係性作りがとにかく大切ですよね。

富沢さん

台本は、最初の一回はなんとなく読んで、印象に残るシーン、ポイントになりそうなシーンはこんな感じかなとか考えながら頭に入れるけど、あとはサラッと読んじゃうかな。

加瀬さん

俺は、前にある人から、「加瀬さんは台本を字で読みますか？画で読みますか？」って聞かれたことあるんだよね。その時は俺は「字で読む」って答えたんだけど、その人は「俺は画で台本読むんです」って。だからその台本を読む段階で、画で芝居が出来あがっちゃうって言ってた。でも、字で読む事で漠然としたイメージを作ることができるけれど、画で読むことによって自分の考えが凝り固まらないようにするという意味ではいいと思う。監督はまた別の台本の読み方をしているかもしれないし、カメラマンも美術デザイナーも別かもしれないから、その人たちのアイディアを聞いた上で、自分で画にしていったほうが俺はイメージが作りやすい。だから、イメージを持つことは大事だけど、あまり凝り固まらないような台本の読み方をしたほうがいいと思ってるんだよね。

富沢さん

連ドラの撮影とかで後半になってくると、台本を読んだだけで画が出てきちゃうようになったりすることはあるけどね。

木村さん

俺は、台本はサラッと読んで、下見に行った時のイメージも加味して膨らませていってるかな。

川埜さん

僕は台本を何回も読んでしまうタイプです。画というよりも、内容だったり、読むたびに変わる登場人物の感情だったりをしっかり理解したいというのが強いですし、読んでおかないと不安になってしまいます。

富沢さん

俺は最初から台本を読み込んで頭に入れたくないんだよね。読みすぎてしまうと、自分の頭の中のイメージが強く入りすぎたりしちゃうかなと思ってしまう。

加瀬さん

作品全体を扱うのであれば、台本より原作を読んだほうがいいよね。原作はト書きじゃなくて、文章中に作者の思いを書いてくれているので汲み取りやすいんだよね。撮影に入るまでの準備としては、関連作品を見ることもありますし、その中でも一番大事にしているのは監督など他人の意見を聞くことですね。

富沢さん

俺は台本が完成する前に、作品が決まったら原作を読んじゃうこともありますね。その後に台本を読む、みたいな。原作の方が登場人物の背景とか丁寧に描いてくれたりしていて、理解を深めやすいこともあるからね。

加瀬さん

あとは準備段階で大切にしているのは、人物のキャラクターやイメージを掴むことによって、ライティングを考えることかな。撮影の準備期間にいろいろな情報が入ってくるんですよね。カメラのレンズ情報や、イメージに近い別作品の情報、監督からこういう風にしたい、だったり。そういった情報集めが準備段階では大切なのかもしれないね。

川埜さん

僕も準備期間は前作を見たりして、情報収集したりしています。打ち合わせとかでは会ってはいるけれど、全スタッフが顔を合わせる最初の日になるから、すごく大切な日になるので、情報収集して準備していてもクランクインの日はやっぱりソワソワしてしまいますね。

富沢さん

クランクインの日はあまり意識はしてないとは思っているけど、前日は寝付けない日もあったりするよね。これから始まるな、と思ったりしてます。

木村さん

緊張とかはもう特にないけど、初めてやった作品とかだと寝れない日とかもあったとは思うけど、本数を重ねるうちに慣れてきた感じかな。とりあえず今でも、クランクイン当日の台本は前日に改めて読むことにしている。

加瀬さん

クランクインの日はやっぱり、先々の心配事の方が勝っちゃったりするから、僕も前日は当日撮影するシーンの台本を読み返したりしますね。

一同

クランクインしてしまえば、こちらのペースにはなるんだけどね。

加瀬さん

監督にもいろいろな人がいる。映像に対してとてもシビアな監督もいれば、その真逆で「映像は任せるよ」みたいな監督もいる。そのどちらのタイプの監督に対しても、自分が疑問に思っていることは聞くけれど、聞いていいタイミングと「今は聞く時じゃないな」みたいなことがあるから、そのタイミングを図ることが監督とのコミュニケーションの中で一番大切なことかな。慣れ親しんだ監督と仕事をする時だったら、照明以外のことでも演出的なことを提案してみたりして、コミュニケーションを取ったりすることもありますね。あとは、監督のやりたいことの引き出しを照明以外のところで聞いたり、監督と助監督の会話を聞いたりすることで、作品のイメージがわかってくることもあるのでそれは意識してますね。あとは、衣装合わせの時に監督と役者さんが、「この人物はこういうキャラクターです」みたいなことを話したりするから、それを聞きたいがために衣装合わせに行ったりもするかな。

富沢さん

僕はずっと長いこと一緒にやってきている監督がいて、その方とだとわからないことがあれば聞くけど、基本はもう「任せるよ」と言ってもらえることが多くなってきたかな。だからこそかっこよくできて当たり前になってきているので、逆に頑張らないとなという気持ちになりますね。

木村さん

僕は監督と食事する時に、作品に沿った話をするというよりかは、カメラマンやデザイナーなどの方々も一緒にコミュニケーションをとっているって感じかな。照明に関しては基本的にお任せしてもらえることが多いかな。

川埜さん

僕も照明のことに関して何か言われることは少ないですね、一緒にキャンプやゴルフに行く監督もいます。そういう時にコミュニケーションをとったりしています。

Vol.2へ続く…